ワークブーツ -Workであること-

新しい靴を買おうと調べ、ダナーというメーカーのマナワというのが気に入ったので購入したのが去年の8月。外国製なので少し小さめをゴコーニュー下さいという文句に忠実に従って24.5cm相当の6.5Dというサイズを注文。実物を履いてみると24.5cm相当にしては確かに前後に長い。そして左右は少しきつかった。固い革で出来た靴でいきなり炎天下の休日を歩きまわる事への危惧が頭の片隅を過ぎったものの、その美しい形態への誘惑に溺れた結果、当日夕刻には踵のクツズレと左右からの締め付けによる纏足攻撃に一人帰宅難民と化していた。
纏足攻撃の攻勢が治まったのは一年の半分、182日あまりが経過した後のことであった。しかし、その攻撃が下火に向かいつつある中にも、別の作戦が敢行されていた。靴下がズレるのである。一歩右の足を踏み出し、そのまま後方に蹴り上げれば、右足のsocksは爪先方面へ数cm移動。左足を一歩踏み出し蹴り上げれば、左足のsocksに同様の運動が発生。左足の次には右足を前方に差し出さざるを得ず、その足に装着されたsocksは完全にプログラミングを履行して数cm移動。10回も下肢を交互に運動させれば土踏まずに集約された布製の物体に、精神の均衡を保つ事は至難の業と言わざるを得なくなっていた。とはいえ私も座して事態を黙認していたわけではない。イトーヨーカドー武蔵境店西館3F下着売り場に「ズレない靴下」を探り当て、直ちに装着。彼はマナワの攻撃に見事に耐えてみせた。が、アメリカ製ワークブーツの物量攻撃は侮れなかった。踵の守備にリソースを割いていた頃、爪先への攻撃が開始されていた。イトーヨーカドー武蔵境店Presents socksは数回の任務を遂行した後、その爪先に名誉ある戦傷を抱えていた。

そんなマナワを失敗学の教材として、レッドウイングのベックマンを発注。6.5Dには目もくれず7.0Dをプルダウンメニューから選択、発送指示を掛けた。
私の学習能力の高さはElegantに証明され、古代中国の因習とも、イトーヨーカドー武蔵境店西館3Fという駆け込み寺とも縁を絶ち、半年の苦行期間のショートカットに成功。しかし、Lovelyな新婚ワークブーツ生活が待ち構えていたと思われたのもつかの間、ハイカットブーツが示すそのフォルムの突端は、アキレス腱を新たな攻撃目標に選定したようである。
この靴にも雲水としての下積み生活が待ち構えていた。