書籍・雑誌

身辺雑記/ゼロ記号

「断片的なものの社会学」という本を読んだ時、私小説だなと思った。 私小説といっても色々だけど、私小説の特徴の一つに、物事から物語りや意味付けを排して「断片的なもの」として等置していくということがある思う。 その時唯一のリアリティは書き手が存…

33年後の東京漂流

地殻があり、その上にアスファルトが敷かれ、コンクリートの構造物が建つ。人の手によるメンテナンスが薄くなったところには、忽ちのうちに植物が進出してゆき、その根はコンクリートを割り繁茂する。 カラフルな屋外広告は金の切れ目により更新されなくなり…

「百物語」森鴎外

「百物語」森鴎外 写真を道楽にしている蔀(しとみ)君と云う人であった。いつも身綺麗にしていて、衣類や持物に、その時々の流行を趁っている。或時僕が脚本の試みをしているのを見てこんな事を言った。「どうもあなたのお書きになるものは少し勝手が違って…

「愛の山田うどん」北尾トロ えのきどいちろう

「愛の山田うどん」北尾トロ えのきどいちろう 外食チェーン店を言説の俎上に載せる場合、多くは近代批判の文脈でなされる。 それに対比させられる形で、昔ながらの商店街や個人商店の持つ関係性が称揚されるか、老舗の洗練された技能や、エコロジカルなロハ…

西欧の成果をいかに日本語の実感に移し替えられるかという問題意識と、「自然」な日本語に論理を導入して解体しようとする問題意識。

「想像ラジオ」いとうせいこう

「想像ラジオ」いとうせいこう 想像することを語りかけ、想像しつづけるその人物は、生きているわれわれが想像する人物であり、そう想像しているのではないかと想像せざるを得ない想像としてある。 想像はナルシスティックな閉塞のようでもあり、閉塞を打破…

別冊太陽 中上健次特集 復活ライブ

別冊太陽の中上健次特集で、柄谷行人がノーベル賞受賞の可能性を軸に、ある時期に中上や三島が右翼から良識的知識人へ態度の変化を見せたことを読み解く。 ノーベル賞、三島由紀夫、安部公房、等をキーワードに時代の相を切り取り、現代の見取り図を鮮やかに…

「決闘写真論」篠山紀信 中平卓馬

「決闘写真論」篠山紀信 中平卓馬 以前からこの本のことは気にはなっていたが、たぶんモノのありのままの姿を晒せ、というようなもので中平の写真ほどには面白くないだろうと思って後回しにしていた。実際に読んでみると大抵のものがそうであるように、思っ…

「大江健三郎のアレゴリー」柄谷行人

【抜粋】 - アレゴリー的な作品が評判が悪いのは、自分の特殊的な事実を棚に上げて、一般的なものを語ろうとしているようにみえるからである。しかし、アレゴリー的作家が個別性にこだわっていないというのは誤りである。むしろその逆なのだ。シンボル的小説…

アマチュアの世界

岡田暁生の「音楽の聴き方」は、近代音楽が「すること(作曲家/演奏家)」「享受すること(聴衆)」「語ること(批評家)」の分業体制をロマン派と音楽産業の共犯関係によって確立したことへの抵抗として『真摯なる「アマチュアの領分」』が必要だとする。 …

「切り取れ、あの祈る手を」 佐々木中

何も新しい事態は始まっていおらず、何も終わってはいない。 芸術が社会学の対象としてのみ扱われる、その行為事態が「情報」であり、「文学」とは「読み、読み変え、書き変え、書く」革命を指向する行為であり、現状追認の合理化ではない「懐妊」の言葉を紡…

「白と黒で - 写真と・・・・・・」清水穣

今読んでいるところだけど、いちいち首肯ける。こんなに首肯けていいものだろうか、とも思ってしまう。 それにしても写真家の名前がまるで分からないので、都度、画像検索しながらの読書になります。

「悲願に就いて」坂口安吾

「自らの実体を掴もうとして真実の光の方へ向かおうとすれば真実はもはや向いた方には見当たらなくなっていたというような、或いは逆に向き直ったところの自らが、向き直ったときには虚妄の自らに化していたというような、即ちこの悲劇的な精神文化の嫡男が…

「豊饒の海」三島由紀夫

ラジオで、「妄想シックスティーン」という16歳の頃の妄想を告白するコーナーをやっていて聞いていた。武道館でライブをしている妄想や、有名人と結婚する妄想なんかを紹介していた。オーケストラの指揮者になりたくて、クラシックのレコードをかけながら、…

村上春樹風

現代作家の多くが、村上春樹風の文章を書くけど、何故こうも、この種の文章を採用するんだろうか。登場人物の話し方から、地の文の描写まで。「村上春樹風」という言葉しか思いつかないけど、ああいう文体を採用した時点で、もう描ける世界はひとつ限定され…

「雪国」川端康成

以前に読んだときは、いい気なものだと、東京の金持ちの男が田舎の芸者を愛でる視線を唾棄して読み捨てたが、何気なく読み返した今回は沁みた。スキー客あたりを目当てに働く若い女に、片田舎で「無意味」な生を、儚くも甲斐甲斐しく輝かせる閉塞の美を見い…

「表層批評宣言」蓮見重彦

なんとなく、昔読んだ「表層批評宣言」を引っ張り出して読んでいたら、下の文章に感心した。「今生きているという事実に自明の手ごたえ」を感じつつあるものこそが、なおも世界へと向けておのれ自身を旺盛におし広げ、世界との無媒介的な合一感をくまなく玩…

<問い>の問答

気鋭の禅僧ということになるのだろうか、南直哉、玄脩宗久、二人の禅僧の対談集。興味深く読んだけど、まとまった感想が出ないので、面白味を感じた部分をいくつかピックアップ。 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯…

「さようなら、私の本よ!」大江健三郎

主人公の長江古義人という老齢の小説家の中にある“おかしなところのある若いやつ”は、自信の内面にそれを抱え込んだ葛藤として描かれることは無く、周りに出てくる若い登場人物に、ゆるやかに仮託され展開していく。老齢の小説家、長江古義人は今まで ー世界…

「わたしたちに許された特別な時間の終わり」岡田利規

久しぶりに退屈を感じることなく小説を読むことが出来た。最近は小説を読んでも、そこに出てくる主人公が何を感じようが、作者がどう描写しようが、そんなことは知ったことではないという気分がどこか付きまとい、社会学者や心理学者の気分にでもなって”研究…

「黄泉の犬」 藤原新也

オウム真理教を手がかりに、現代人が抱える信仰やリアルなものをめぐって、論考を展開する。社会的弱者であったものが信仰や社会運動を通じて強者になるためのシステムを構築し、新たな支配構造を生み出すメカニズムを拒絶して、あくまでリアルなものとして…

カネと暴力の系譜学 萱野稔人

国家と資本の成り立ちを、論じるにあたって著者は、利益を得る手法をまず次のように分類する。「カネを手に入れる四つの方法」1. 誰かからカネをもらう2. みずから働いて稼ぐ3. 他人からカネをうばう4. 他人を働かせて、その上前をはねる1. は相互扶助の共同…