「ニーチェの馬」タル・ベーラ

ニーチェの馬タル・ベーラ
美しい階調を湛えるBlack & Whiteは終始破綻を見せず、物語への奉仕とは一線を画した描写は、これ以上続けば観客の関心が離れる手前の絶妙なタイミングで切り替わる。
引き返してきた荷車から下ろされる荷物は、場面の説明記号を超えて全てが家へ運び込まれるまで映し出され続ける。その克明な描写はリアリズムとして観客に画面の彼等と同じ日付を持った同じ時間を体験させながらも、それ自体がアレゴリーとして神話の世界となる。
好転することなく静かに衰弱してゆく事態はしかし、その事態がそのまま西洋絵画の伝統に連なる事をもって救済されてゆく。