これは予言ではない

バブル崩壊後のここ十数年間、とりわけて小泉政権下の現在の日本社会は、いわば「感動ノイローゼ」に覆われている。

冷静に見回せば、ほとんど亡国の危機ともいえる惨状から、いっとき目を背けるにまた、「感動」ほど効果的なものはなく、その効果は、自堕落な「涙」によっていっそう高まるだろう。

誓ってもよいが、この大勢がさらに五年、10年つづいた暁には、われわれの社会は完璧に崩壊するか、二十一世紀型ファシズム社会を世界に先駆けて実現していることだろう。

「『小説の聖典』漫談で読む文学入門」いとうせいこうx奥泉光+渡部直己

河出文庫 P239 渡部直己による注釈

2012年11月10日 初版発行