スネの悦楽

スネに損傷を受けることに対して、アプリオリな恐怖心がある。幼少の頃はギザギザの石の上へ正座させられる空想をしては、布団の中で一人悶絶していた。

しかし、近年私は、その恐怖の発生源でしかなかった部位を悦楽を発する装置に変換することに成功した。

椅子に腰掛け、かかとを床に付けたまま、つま先を上下に運動させるのである。スネにある筋肉が運動を開始し、23分もすれば、睡魔が意識を連れ去ってゆく。誘惑の悪魔との戦いに勝ち、意識を自身の身体に戻すと、我が肉体は椅子の上で、ガックリと首を落として、仮死状態になっている。私の強靭な意志力は肉体に、つま先の上げ下げの再開を命ずる。前脛骨筋は伸縮を繰り返し、徐々に熱をおびだす。頬の筋肉が上部方向に移動をはじめ、顔面が、アルカイックスマイル状に変形してゆく。いつもは、外界への警戒心しか示さないスネは自身が快楽を感ずる資格を持っていたことに感涙せざるを得ず、世界が美しいものであったことを、発見=創造するのである。