「黄泉の犬」 藤原新也

オウム真理教を手がかりに、現代人が抱える信仰やリアルなものをめぐって、論考を展開する。

社会的弱者であったものが信仰や社会運動を通じて強者になるためのシステムを構築し、新たな支配構造を生み出すメカニズムを拒絶して、あくまでリアルなものとしての現実と直面し続けることの重要性を語る。

注意すべきはこの著書が、それらを一般的な命題として展開せずにルポルタージュや自身の体験談として書かれていることだ。現実のいかなる関係の中で抑圧が行われ、それへの抵抗が行われ、そしていかに別の支配が生み出されていくのか、それへの考察が、その考察自体が、どのような関係の中で展開されたものであるのかを描き出して行く。

藤原新也が時に素朴なロマン主義者に見えながらも、それとは違う印象を与えるのは、この、現実の関係を意識化する行為から足を踏み外すことが無いところから来るのだろう。逆に言えば、そこを揺るがずに持ち続けるからこそ、妙な自意識に絡め摂られることなくロマンチックに見える言説も躊躇することなく現すことが出来るのかもしれない。