「美代子阿佐ヶ谷気分」

林静一トークショーがあるのを知ったので、ポレポレ東中野で「美代子阿佐ヶ谷気分」を見てきた。

林は、この映画の原作となった漫画の作者、安部愼一のような地方出身者にとって東京は舞台であり、そこでの生活は演劇としてあるのではないか、自分のような東京出身者にとって東京は地元としての日常であり舞台の感覚は分からないという。また、地元だからこそ持ちうる東京内の地域差に関する微細な差異の感覚と、それを持たずこだわり無く東京を闊歩する地方出身者の"大胆さ”の違いも指摘する。
この映画の監督である坪田義史(だったかな?別の人の発言だったかも)は、安部はそれなりに裕福な家庭で"王子様”として育った人であると言っていた。林はたぶん裕福な家庭ではなかったらしく、就職先としては、町工場に勤めるか、好きな絵が生かせるアニメーターくらいしか無かったと言う。
このあたりの生い立ちの事情はずいぶんと単純化はあるのだろうが、彼らの生活と作風のスタイルのねじれ具合を考えるには興味深いと言える。

しかし、そういったトークの内容よりも、自分にとって漫画家林静一というのは決定的な存在の一人であり、実際の人物に触れ得たことが真に重要な事柄。

安部愼一のマンガには否定的な自分だが、映画に映し出される安部のマンガのカットは、愛おしいもののように見えた。

林は最後に、もう少し言わせてくれとトークショーの終了を制して言っていた。

この映画のまったりと描き出された安部は、最近の若い人のそれだが、自分は「走る安部愼一」が見たいと。