「想い出づくり」

田中裕子出演の映画やドラマは、めぼしいものは大体見てしまい、他に見るものがなくなってきたので、エイヤッとkiyomizu diveを敢行。81年製作のTVドラマ「想い出づくり」のDVD BOXを購入。

この田中裕子はいい。スレたような、可愛いような、ガラの悪いような、上品なような、田中裕子特有の複雑な魅力がよく出ている。TVドラマなので、それら多様性は単純化と使い分けがあるものの、映画作品にもそう大きく引けはとらない。それだけでも自分としては充分だけど、共演の森昌子も快活でざっくばらんな生き生きとした魅力があって良かった。一応、主人公は正統派美人の古手川裕子のようだけど、他の二人と描かれ方の軽重はない。田中裕子、古手川裕子、森昌子の三人のテンポのいい会話は楽しい。
物語は20代前半の"適齢期”の女の子の模様を描いたもの。キャリアアップの道が閉ざされている女性にとって、結婚だけが人生設計の方途であるという状況に苛立ちながら、親が持ちかけてくる縁談の"条件”で結婚を決める気にはなれず、かといってこれといった男にめぐり合うきっかけも見出せない。というもので、今でも無効だとは思わないけど、同じテーマを扱うにしても描き方はかなり変えないとならないだろう。ま、内容は括弧に入れて、視線の先は特定の女優さんにピンポイントで焦点を合わせているので、そのあたりはスルー。

とはいうものの、まったくスルーできるわけでもない。30年近く前のTVドラマというものは、ずいぶんと時代感覚の遠近法が狂わされる。ものすごい昔の事で、まさに隔世の感、異文化圏の話のようにも見えるし、今と変わらない問題を共有してもいる。これが映画なら、80年代など、そう古いものだとは感じないし、文学なら、つい最近のことになる。映画や文学が、より基礎的なもの、先鋭なものを扱うのに対して、時代の風俗に最接近するTVドラマは自分の頭にある時代の整理を撹乱する。

なかなか楽しく見れたドラマだったけど、最後のまとめ方はどうしようもないなぁ。辛うじて見合い結婚に異議をいっただけ。大昔のTVドラマに文句言ってもしょうがないけど、特に田中裕子がやっていた役の子が結局ナルシシズムを出なかったことには萎える。制度の否定がナルシシズムの成就にあるとしたら、興味深い症例と言えたりなんかしたりするのかもしれないとか思ったりもしないでもない、なんてことなない。

さて、残すは「おしん」ばかりという事態にまでたどりついたが、そこに「命がけの飛躍」flying kiyomizuの翼を羽ばたかさざるを得ない渇望状態の到来は、まだもう少し先だろう。これがレンタル可能なDVDなら、他の作品を同時レンタルとして抱き合わせることで、リスクヘッジが可能だが、DVD BOXとなるとリスクは格段に高まる。田中裕子への信用は成立しているが、橋田壽賀子の信用査定を行う情報は皆無の状態。