一回性

全ては一回性の出来事。色々な時代の作品を見ていると、この作家が今生きていたらどう書くだろうかとか、この時代の俳優の演技が今出来ないものだろうかと思うことがあるが、そういうものは全て、その時代の生活の条件と、そこで夢見られた欲望の具現化であって、それをそのまま移植することは出来ない。自分が強く衝撃を受けた、つげ義春のガロ時代の作品も、つげ当人の自我意識の発芽と、時代の近代批判の文脈という逆方向のベクトルが交錯したところに現出した特異な、ある一点としてある。こんなことは二度と起こらない。
真にアクチュアルなものとは、個々の動機と時代の要請の出会い損ねであるかもしれない。恋愛がそうであるように、美しき誤解こそが事象をスパークさせる。早晩齟齬は顕在化せざるを得ない。醜さは家庭内離婚にこそある。倫理的に要請されるとしても、美的基準には届かない。