「写真の読みかた」名取洋之助

写真論の古典として紹介されることの多い本書では、絵画に比べ夾雑物が混ざり込む写真は、一時の旬を過ぎればたちどころに記録としての価値に堕してしまわざるを得ず、その特性からタブローとしての自立を指向するよりも、むしろ「記号」として雑誌や写真集、展覧会の中で機能するパーツとして読める文脈を身に纏うことこそが写真の進化であるとする。
美術の「自立」を主張するモダニズムブルジョワイデオロギーとして批判し、切り捨てられた可能性の回復として「絵画の読みかた」を主張するあり方が美術史的にはオーソドックスだろうが、本書は写真においてそれを進化形と位置付ける。
日本の写真界では写真集が尊重される傾向にあるという。また単写真よりも組写真がより高度なものと捉えられているようでもある。欧米の写真を見ると依然タブローとしての自立指向がメインストリームにあるように思う。一方日本ではスナップへの指向性が強い。そこには日本的自然(じねん)思想が、記録性に文脈を付与することを批判としてではなく、進化として位置付けることによって得た、ある「自信」が現れているように見える。