「亀」池田将

コミカルな味付けがなされてはいるものの、物語の展開を切り詰め、過剰な演出や、恣意的な編集を抑え、人物描写だけで、観客にショックを与えることなく、しかし退屈を感じさせず、スムーズに、軽妙に、厚みや多層性、振幅を保ちながら、リアルに、世界をというよりも登場人物たちを肯定していく。

幸福感を無理強いするわけでもなく、グロテスクさを暴き立てるわけでもなく、かといって対象を突き放した俯瞰の獲得を意図されているわけでもない。

この無作為、というより非作為ともいうべきナチュラルなしなやかさは日本映画のひとつの到達点と言えるだろうか。

作為ー無作為という構図からずれたところで、どこかエンターテイメント性を帯びながらも、リアリスティックな描写をつみかさねていく。

われわれは、日本的自然(じねん)が、夾雑物をそぎ落としながら、その姿をスクリーンに現した瞬間に立ち会っているのかもしれない。