「男はつらいよ」−国民的正月映画ということ

田中裕子に導かれて「男はつらいよ 花も嵐も寅次郎」観賞。まさか寅さんを見る日が来るとは想像だにしなかった。裕子最高はともかく、映画も十分楽しめた。もっと下町情緒あふれたドタバタコメディで、寅さんというのも、啖呵を切りまくる威勢のいいだけのお兄ちゃんかと思っていたけど、そういうことだけでもなかった。

寅さんというのは、反抗期の少年が周囲と和解しないまま成長し、ポーズにポーズを重ねて、その軽妙な立ち位置を確保し続けているスタイリストなんだな。しかし、そのスタイルは世間からの疎外感に簡単に破綻をみせて、ちょっとしたことで、ひねくれてどこかへ逃避してしまう。若いカップルを親身に面倒を見るその姿も、自暴自棄と表裏のものとして描かれている。

寅さんというストレンジャーを導入することで家族を再認識するという構造なのだが、そう、ちゃちなものでもない。約束事だけを組み立てて出来ている映画ではあるが、その内実には一定の厚みがある。一時代を築いた国民的映画を今更自分が再発見したところで、どうなるというわけでもないけど、支持されるにはそれなりの理由もあるんだなと。こういう映画を正月に映画館で見るというのは、どういう体験だったのだろうか。デート映画ではないのだから家族で見に行くのだろう。