working chair surfing あるいは working class surfing 〜vespa primavera 150〜

ベスパの事務椅子に座るようなポジションは、そのまま事務椅子に座るようにしたほうがいいようだ。

ジワっとアクセルを捻るとラグもなくスッとスムーズに前進し、フワッとしたブレーキで滑らかに減速。そこからステップを踏み込んで、リア荷重でくるっと回る。小さなギャップはしなやかに吸収しながら路面をトレースし、大きなギャップに振られる車体は、ステップ荷重とリーンアウトでいなす。

ハンドルはモーターサイクルで推奨されるようなドアノブ握りやボールを抱えるように肘を張るようなことはせずに、ポジションが要求するなりに真っ直ぐに腕を伸ばして力を入れずに、セルフステアに任せるようにしたほうがよさげ。

車体のコントロールはステップ荷重を意識するようにしているが、それはシートにどっかりと座ると、おしりが痛くなるということもあるけど、小径軽量スクーターの外乱から影響を受けやすい車体を、押さえ込むのではなくダートでも走るように、いなしながら走るには、そのほうが適している。

アクセルは大きく開けてもそれに見合った速度は得られず、気持ちと体だけ前のめりにズッコケるが、適度なアクセル開度で開けていけば可及的速やかに前に出ていく。これはCVTの特性ということもあるのだろう。

ラフな操作での安全マージンを持たせたのか握り込まないと効かないブレーキは、乗りはじめた頃は三本指でないと効かせられない感じだったけど、握力の強靭化が図られたのか、ブレーキシステムにあたりという馴染みが発生したのか、制動力に見合ったタイミングで使うようになったのか分からないが、今では二本指でも気にならなくなっている。まぁあたりががついたのだろう。初期が緩やかな特性もこのバイクのスムーズな印象に合っているともいえる。

高速走行はさすがに楽しいというものでもなく、吹きっさらしの陸橋で北関東の空っ風に向き合うような場面では、アン王女との輝かしい日々を回想しながらHighweyに大粒の涙を散布することになるが、趣味としてのモーターサイクルが、memento moriな高揚を招き寄せる、逸脱した使用価値を持つ工業製品であったことを再認識する絶好の機会だと言い聞かせることも不可能とはいいきれない。

キビキビとカットブようなものではもちろんないが、かといってゆったりとラグジュアリーな重役気取りを満喫するようなものでもなく、街中をクイックかつしなやかに動き回る乗り物といった感じ。

敗戦後に航空機生産を禁じられたピアッジオ社が、1946年に四輪車を所有できない層に向けて開発した、実用性に特化したスクーターというパッケージに、その後のブランディングで高品位やファンバイクの要素を加味していった経緯は、会社の成り立ちは違うものの時代背景としては本邦の代表的実用二輪車であるホンダ スーパーカブにも通じるところがある。カブが仕事車でベスパがシティコミューターであることに彼我の国民性の違いを見るのはイメージの投影だろうか。それはともかく、実用車由来の経緯から得られたところのworking chair surfingあるいはworking class surfingを堪能するのが旧枢軸の国民と市民のダイナミックレンジなのだ。

f:id:mlb30836:20210307014142j:plain