「選挙」想田和弘

2005年の川崎市市議会議員補欠選挙自民党公認の新人候補、山内和彦の選挙戦を描いたドキュメンタリー映画
自民党公認候補として、選挙のプロ達の運営する組織のパーツとして、候補者本人が様々な違和感を抱え込みながらも、選挙運動の力学の中で駆動してゆく様子が、ありありと描かれている。

このドキュメンタリーが選挙というものの実態をどこまで映し出しているといえるのか分からないが、とにもかくにも選挙戦の現場というものが、どういうものであるのかが、よく見える。そこで行われている実態が、議員選出という目的の正当性の実現に沿った活動として機能し得ているのようには見えないというのが、映画の作り手も受け手の鑑賞者も同様に持つ感想だろう。しかし、そういう問題とはまた別に、どんな改革が進展しようとも、どこまでいっても現場というものは、利害と共感がうごめく取り止めの無い散文的な世界であることを捉えているところに、この映画の力がある。

現場というものはとかく、決まった目的を実現するための技術的な工夫が最優先になる場で、この映画でも、握手の仕方から、妻を家内と呼ぶことや、名前の連呼の時間的工夫といった"瑣末”なことがらに多くのリソースが注ぎ込まれてゆく。

同じく現場の人間としては、これらの技術的な工夫を一笑に付す気にはなれず、政治的な映画というより、伝統的な職人集団を描いた映画のように見える。