ベスパ転倒・ボディ修理(?)

ベスパ乗車歴6年目にして初の転倒。

今まで何度か発生した立ちゴケの危機はかろうじて回避し続けてきたものの、そのときは唐突にあっけなく訪れた。

 

撮影のために訪れた田舎の幹線道路から分岐した、DIYじみたアスファルト舗装が施されている脇道を走行中のできごと。

人通りのない見晴らしのいい脇道という安心感、撮影シーンの探索、交換したばかりの駆動装置がもたらす低速域からの心地よい加減速の感触への陶酔という注意散漫状態のまま、一車線の曲がりくねった小道を20kmほどの速度から車体を右に傾けた瞬間、通常の幹線道路ではお目にかからないような泥の堆積に、片持ちフロントサスペンションに支えられた12インチタイヤは如何なる前兆を見せる事もなく進行方向から270度の左方向に移動した。

フロントタイヤの接地感が喪失してからアスファルト路面にコンタクトするまでの時間のあいだに、車体の制御を試みる意思と、物理法則がもたらす不可能性に諦念する理性と、それに連動する肉体の動作が、背筋下部の筋肉に違和感を生じさせながら、ベスパプリマベーラのモノコックスチールボディとDIY的アスファルト路面は、その音源の主体がどちらにあるのかという禅問答をよそに、鈍い接触音を響かせた。

背面からほぼ水平に接地した上半身は、パワーエイジのイージーライドパーカーに初期装備されている脊椎パッドが衝撃を吸収して痛覚は覚えなかったものの、コットンとポリエステル素材が数枚存在するだけという字義通りの丸腰でアスファルト路面に挑んだ腰部には激痛が発生した。

 

うららかな日曜日の午後、休日の静けさを保つ工場と水田の間にあって、横倒しの空冷3バルブエンジンのアイドリング音だけが、田舎の広い上空に拡散してゆく。

四つ這いの姿勢のまま地面に突っ伏して痛覚に耐えていると、水田の向こうに存在する中古車解体業者のヤードから、かすかにコーランが流てきた。

午後の3時ということだろうか、と一種の乖離的防衛機制を働かせながら、痛覚とそれによる祈祷類似姿勢と共に、鷹揚な抑揚を持つメロディーをぼんやりと聞いているとアッラーの加護だろう、たまたま通りかかった地元の自動車の運転手と同乗者に、腰の痛みで起こせなかったベスパの引き起こし作業を依頼することができた。

 

その後の帰路から自宅での悶絶、治療、検査、静養となかなかの数ヶ月を送ることとなったが、ここではブログカテゴリーに従ってベスパに焦点を絞ろう。

 

  

車体のダメージは写真の通りだが、衝撃的なのはその修理見積もり。モノコックスチールボディが要請する板金塗装作業の対価はおおよそ20~40万円。見積もりを耳にしたその足でオートバックスに出向いて購入・作業したパテ盛りによる仕上がりは、先のPriceが念頭から離れない以上、自身の納得を確保するのにさほどの葛藤を必要とはしなかった。

パテ作業後の状態を撮影した写真には、若干の侮蔑的ニュアンスと共に用いてきた「DIY的舗装道路」と比肩するテクスチャーが記録されており、ネット黎明期のクリシェである「全世界に発信」という行為は、尊厳の確保という観点から「忘れられる権利」の十全な遂行を期待できない現下では回避せざるを得ないと判断した。

今回の件で、ベスパの美しいSpotカラーモデルは、潤沢に板金塗装費用を捻出できる上位1%の奢侈品であることが判明したわけだが、色調達が容易なStandardカラーモデルの選択は、DIY補修の可能性をスキルレスな苦笑いを含めつつ拡張できるとことが図らずも提示された。

     

バンパーつけましょうかね。